レンタルのローム のノート

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愛車との再会

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東京にきて、早いもので3年が経つ。あっという間に過ぎる日々を人は時に充実と呼ぶが、果たして私の3年間が充実したものだったかと問われると、正直よくわからない。

都心のオフィスに毎朝電車で通勤している。職場の人はみんないい人たちだが、圧倒的に人手不足で、雑談する間もなく日々それぞれの業務に追われている。もしかしたら嫌なところに気づくほど話をしていないだけなのかもしれないと、最近は思う。

かと言って、上司との雑談も業務のうち、みたいな状況だった以前の職場に未練はまったくない。地元が嫌になり、仕事を辞め、すべてを振り切るようにやってきた東京。しかし、今の私の暮らしといえば、満員電車、終わらない仕事、コンビニ弁当。なんだか虚しくなってくる。

とある金曜日、私はいつものように定時をとっくに過ぎてから退社し、近くのファミレスで適当に食事を済ませたあと、2駅移動して小さな映画館に入った。チケットを買い、席に座る。深夜にもかかわらず、それなりに客がいた。オールナイトでやっている映画館がある。それが唯一、明確に東京にきてよかったと思える点かもしれない。

その日は同じ監督の作品を3本連続で上映していた。最初の2本は面白かったが、3本目は正直つまらなくて、途中でうとうとした。ハッとして目を覚ますと、主人公が海沿いを車で走っているシーンだった。その景色は、地元によく似た景色だった。きれいだった。

 
翌日、自分でもそんな馬鹿なと思ったのだが、私は地元へと向かう電車に乗り込んでいた。電車に揺られながら、地元でのいろんなことを思い出していた。

「女性はね、どうせ結婚してやめちゃうでしょ。」

前の職場の上司はことあるごとにそんなことを言っていた。そのたび、私の中で何かが削れた。

「転職します」と言った時、私は勝ち誇った表情をしていたかもしれない。でも、上司は別になんとも思っていない様子だった。自分が言い続けてきたことに対するアンサーだと、まるで気づいていなかった。正直、もっと悔しがってほしかった。
上司は最後、ニヤッと笑いながら、「東京は暑いぞー?」と言った。だからなんだ、と思った。東京がどんなに暑かろうと、ここより不快であるはずがない。

職場が不快だったのもあるが、長く付き合っていた人と別れたことが、東京行きを決める直接的なきっかけだった。地元の大学で出会った、地元の企業で働く、地元の男だった。それは、相手にとっても同じで、私は地元の大学で出会った、地元の企業で働く、地元の女だった。同じ立場なのに、その人はなぜかいつも私を下に見ていた。どうしてあんなに長く付き合っていたのか、今ではよくわからない。

そんな嫌な思い出ばかりの地元の駅は、3年前と何も変わっていなかった。懐かしむために来たわけではない。もう一度、この場所がどんな場所なのか、確かめたかった。東京に行った意味を思い出したかった。

車がないと不便な町なので、当時は車を持っていた。中古の赤い軽自動車だった。車に乗っている時間は好きだったが、あまり遠出したことはなく、ほとんど通勤専用だった。でも車に乗れば、例えば電車やバスの走っていない真夜中だとしても、自分が行くと決めたらどこにでも行ける。その可能性を秘めていることで、運転しているときだけは少し自由な気持ちになれた。

東京に車を持って行けたらよかったのだが、駐車場代のことを考えて泣く泣く手放した。引っ越しトラックを見送ったあと、駅の近くにある個人経営の小さな中古車販売店に行き、車を売り、東京行きの電車に乗ったのだった。

歩いていると、ちょうどその中古車販売店が見えてきた。店の前に車が何台か停まっている。その中の一台が目に留まり、私は思わず駆け寄った。私が乗っていたのと同じ車種だ。というか、これたぶん私の車だ。ドアの凹みに見覚えがある。

「いらっしゃいませー。」

店の中から、作業服を着た年配の男性店員が出てきた。

「あの、この車、3年前に私がここで売った車だと思うんですけど。」

「ああ、そうでしたか。それはありがとうございました。年式が古い割にまだ綺麗だったんで、うちで使わせてもらってるんですよ。売買のほかに修理もやってますんで、代車としてお客さんに貸したり、レンタカーもやってますし。」

それを聞いて、胸が高鳴った。

「この車、今日一日レンタルできませんか?」

 

 
 
後編はこちら↓
思い出を乗せて
https://www.rentalism.jp/note/668/

 
レンタルのロームはこちら
https://www.roumu-p.com/

 

執筆者:ナガセローム(長瀬) Twitter note

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