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走れ、エアロバイク部!

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「運動が苦手でも、人生において体力があるに越したことはない。我々のようなタイプは家に篭りがちだが、エアロバイクはいい運動になる。そうは思わないか?」

なんやかんやと説得されて、結局、僕はエアロバイク部に入ることになった。誰からも特別に選ばれたことのなかった僕にとって、逸材だと言われて学年からたった一人選ばれた、そのことが心のどこかでちょっと嬉しかったのかもしれない。それが一番暗い奴という理由だとしても。

 
前編はこちら↓
ようこそ、エアロバイク部へ!
https://www.rentalism.jp/note/462/

 

 
それからは、毎日放課後にエアロバイクを漕ぐ日々がはじまった。エアロバイクにタブレットをセッティングして、まずはNetflixで『ストレンジャー・シングス』を一気見した。漕ぐのは大変だったが、あまりにも面白くて観るのをなかなかやめられず、危うく酸欠になりかけた。

部員同士の交流はほとんどなかった。先輩は何かしらアニメを見ていることが多く、部長は電子書籍で難しそうな本を読んでいた。二人は黙々と漕ぎ、満足したら勝手に帰っていった。僕も好きなタイミングで部室にきて、挨拶もせずに帰った。たまに三人で会話するとしたら、「あれ、今日Wi-Fi弱い?」と、ルーターをいじってみるときくらいである。

学校中が文化祭で盛り上がっているときも、大会で勝ったり負けたりしているときも、僕たちは部室で黙々とエアロバイクを漕ぎ、それぞれの観たいもの、聴きたいもの、読みたいものに熱中した。感想を言い合うこともなければ、わざわざおすすめし合うこともない。それでも、一人でいるのとはやっぱり違う。同じメンバーで、同じ部室で、同じ時間を過ごすことは、青春と呼べなくもない何かのようにも思えた。

僕がエアロバイク部に入部してもうすぐ一年が経とうとしていた。
その日は日曜だったが、僕は部活に行くため歩いて学校に向かっていた。ハリポタの映画シリーズが佳境だった。

歩いていると、同じクラスの宮内さんがコンビニから出てくるのが見えた。宮内さんは学年でトップの成績を誇り、テニス部でも県大会に出場、その上すごく感じがよく、大変人気のある女子である。学年で一番暗いというお墨付きを得ている僕のような人間にも、顔を合わせば挨拶してくれるような人だ。

テニスのラケットを背負い、コンビニの前で自転車の鍵を開けている宮内さんを横目でちらっと見ながら通り過ぎる。宮内さんもこれから部活なのだろう。ということは同じ方向なので、おそらく自転車で追い越しざまに「おはよう」とか声をかけてくれるに違いない。そう思うだけで顔が熱くなってきた。挨拶されるかもと思うだけでこんなにも緊張してしまう僕は、やはり学年で一番暗い奴に相応しい。

心臓をバクバクさせながらうつむき加減で歩いていると、前方から一台自転車が走り抜けていった。そして直後、「きゃ!」という叫び声が聞こえたので振り返ると、自転車が横転し、道路に尻餅をつく宮内さんがいた。宮内さんは僕に気づくと、「かばん! かばん盗られた!」と叫んだ。僕とすれ違った自転車が走り去って、もう向こうの区画までいっていた。

自分でも不思議だが、自然に体が動いた。

「貸して!」

僕は宮内さんの自転車をおこして跨り、ペダルを思いっきり踏み込んだ。

絶対に追いつける。絶対に追いつける。
自分の頭の中の声とは思えないほど、大きくて力強い言葉が繰り返し響いた。心臓から全身に血がめぐるのがわかった。心臓は全身に血液を送るポンプの役割をしていると習ったが、それは本当なのだと、今まで生きてきてはじめて思った。

ひったくり男は何度か振り返り、そのたび立ち漕ぎして僕を引き離そうとした。しかし、僕はその後ろにぴったりついて離されなかった。自分でも驚くくらい、僕の体はへばらなかった。どうやらこれが一年間エアロバイクを漕いできた成果らしい。

どれくらい走っただろう。正面に急勾配の坂が現れて、男はそれを避けようと左に曲がったが、そこもまた坂道だった。しばらくすると自転車は勢いを失い、男はぜえぜえしながらコンクリートに倒れ込んだ。追いついた僕はとりあえず宮内さんのかばんを確保。「で、どうすればいいんだ……?」と急に頭が真っ白になったところに、パトカーが到着した。

 

・・・・・

 
翌日。教室に着くなり、僕はクラスメイトたちに取り囲まれた。

「昨日お手柄だったらしいじゃん!」

「自転車で爆走して、ひったくり犯確保って、漫画かよ!」

「体力やばくない? なんかスポーツやってたっけ?」

どうやら昨日のことがすでに広まっているらしい。

「昨日は本当にありがとね。怪我とかしてない?」

宮内さんにも改めてお礼を言われて、自分の顔が真っ赤になるのがわかった。

 
その日、クラスはずっとその話題で持ちきりで、放課後になると僕はやや逃げるようにしてエアロバイク部の部室へと飛び込んだ。すると、いつもはお互い干渉しないことでお馴染みの先輩と部長が僕を待ち構えていたのである。

「聞いたぞ、やってくれたな。」

「クラスの女子を助け、ひったくりを追いかけて大捕物。恐れ入ったよ。」

二人は低い声を出しながら僕ににじり寄ってくる。

「さぞクラスでチヤホヤされたことだろうな。」

「おい、覚えているか? このエアロバイク部の入部条件を。」

そう言われて、ハッとした。エアロバイク部に入部できるのは、学年で一番暗い奴だ。

「もしかして、僕もうここにいられないんですか? いやですよ、辞めたくないです、エアロバイク部。暗いですよ、僕! まだ現役バリバリ暗いですよ!」

僕は少し泣きそうになりながら懇願した。それくらい、もうここは僕の大切な居場所になっていたのだ。そのことを懇願しながら改めて思い知った。

しばらくすると、二人が顔を見合わせて爆笑しはじめたので、僕はぽかんとした。

「キミのような暗い奴が、一回みんなから注目浴びたくらいで人気者に成り変わるわけないだろ!」

「現役バリバリ暗いですって、面白すぎる!」

騙された上に大変失礼なことを言われたが、そんなのどうでもいいくらい、ほっとした。

「いや、ちょっと! 焦ったじゃないですか!」

「ははは、すまんすまん!」

こんな風に他人と話せるようになったのだから、僕もこの一年で少しは成長したのかもしれない。
「酷いですよ〜」と文句を言いながら笑う僕の肩を、部長がポンと叩く。

「現役バリバリ暗いキミに、エアロバイク部としての重要なミッションを与える!」

 

・・・・・

 
「スラダンの映画観た? バスケ部入ろうよ!」

「茶道部だよ~! お菓子食べながらお話ししよ~!」

「マネージャーがデカい部員を背負い投げするから見てって!」

「サッカー部で~す! TikTokでバズった部員いま~す!」

今年も相変わらず部活の勧誘は活発に行われ、明るい声が飛び交っている。一年前、僕はここで壁と同化したがっていた。なんだかもう遠い昔のことのように感じる。

賑わっているその向こう側を見回すと、壁際に一人で立っている生徒がいた。僕はその生徒に横から近づく。後輩とはいえ、知らない人に話しかけるのは緊張する。去年、先輩もこういう気持ちだったのだろうか。とはいえ、3月に卒業していった部長が僕に託したミッション、なんとしても遂行せねばなるまい。

 
「部活、もう決めてる?」

 
僕は意を決して声をかけた。パッと顔を上げたそいつのビックリ顔は、完全に去年の僕だった。

 
 
<完>
 
 

執筆者:ナガセローム(長瀬) Twitter note

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編集後記:
どんなきっかけにせよ、踏み出した一歩が自分を明るい未来に導いてくれる。
どんなきっかけにせよ、地道にコツコツと続けたことは大きな力になっていく。

エアロバイクは裏切らない!ペダル、踏み込んでみよう。

 
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