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幸運を呼ぶ儀式 生垣を刈るお父さん

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その日、私は朝から引っ越しの荷造りに追われていた。物を仕分けする余裕もなく、目についたものを手当たり次第ダンボールに詰め込み、ガムテープで封をしていく。急がなくては間に合わない。午後には引っ越し業者が来る。

家具や家電は新居に合うものを二人で相談して買うつもりで、実家の自分の部屋の物だけだから荷造りなどすぐに終わるだろうと高を括っていた。しかし、クローゼットや机の奥から掘り出される思い出の品々の鑑賞につい夢中になってしまい、さらには、レトロなフィギュアが割と綺麗な状態で出てきたりもして、これはマニア垂涎の掘り出し物なのでは? などと変な欲が出てヤフオクに出品したりするうちに、あっという間に数日を溶かしてしまった。

「ねえ、これ持ってかない?」

母がドアから顔を出し、ダンボールの中心に座り込む私に皿を4枚差し出してきた。忙しく手を動かしながらチラッと見ると、子どもの頃から我が家にある、見慣れたボタニカル柄の皿だった。嫌いな柄ではないが、正直、可もなく不可もなくといったところである。

「食器はあとで好きなの買うからいいよ。」

「でも買うまでの間お皿ないと不便でしょ。これ丁度いいんだよ、和のおかずにも使えるし、パスタにもカレーにも使えるし。」

いらないってば、と言いかけたのをグッと飲み込んで、「じゃあ2枚だけ持ってく」と答えた。昔の私なら素っ気なく断ったに違いないが、今は母のお節介を有難く受け取ることも親孝行のうちと思える。

バリバリバリバリバリ。

大きな音が聞こえて、私は立ち上がって窓の外を見下ろした。

「ねえ、お父さんまたやってるよ。」

そこには、庭の生垣をヘッジトリマーで刈る父の後ろ姿があった。長い歯を細かく滑らせるように動かし、表面の伸びた葉や枝を剪定している。

「まったく、この忙しい日に。そんなに生垣が大事かね。」

いつもお節介なほど世話を焼いてくる母に対し、父は良くも悪くも不干渉だった。一人娘の私にあれこれ厳しく言うこともなく、いつもぼんやりしていて心の内が読めない。仕事人間でもなければ、特別な趣味もない。そんな父が唯一やたら気にかけているのが、庭の生垣である。

 

思い返してみると、父は家族がバタバタしている日に限って生垣を整えていた気がする。

入学式や卒業式の朝、母があれは持ったかこれは持ったかと口うるさく言うのを振り切って玄関を出ると、そこにはいつも生垣を刈る父の背中があった。バドミントンの大会の日もそうだった。受験の日も、就職の面接の日もそうだった。

我が家の愛犬ココが急病で危篤状態に陥ったときもそうだった。私と母がココに寄り添い看病する中、父はおもむろに立ち上がり、生垣を刈り始めた。

「こんなときになにやってんの!」

私は泣いて怒った。父は「ちょっとだけだから」と言って、本当にちょっとだけ生垣を刈って戻ってきた。意味がわからなかった。

今日もそうだ。一人娘が結婚して家を出るという大事な日に、なぜ生垣を刈らねばならないのか。

「あれはね、幸運を呼ぶ儀式なんだよ。」

皿を新聞紙に包みながら、母がぽつりと言った。

「幸運を呼ぶ儀式? 何それ。」

「あんたが3歳くらいのときかな。そのころ住んでた借家の生垣を、お父さんがヘッジトリマー借りてきて綺麗にしたの。そしたらね、宝くじが当たったの。」

「は?」

「その日にお父さんの買った宝くじが当たったの。一億円。」

「一億!? 嘘でしょ!?」

「ほんとほんと。そのお金でこの家を建てたんだもん。まあほとんど家に使っちゃったから、今はもう一銭も残ってないけどね!」

ガハハと笑う母を前に、私はしばし呆然とした。確かに、父は中小企業に勤めるごく普通のサラリーマンで、特に出世しているということもなく、母もずっとパート勤めで、日々の生活は質素そのものだったが、家だけはやけに大きく豪華、場所も駅近の一等地である。そういうことだったのか。

「それで、お父さんはゲン担ぎで生垣を刈るようになったってこと? なんだそれ、変なの。」

「いや、あれは侮れないよ。お父さん、大事な日には必ず生垣やってるけど、確かに運を引き寄せてる。あんた、受験のとき回答用紙一個ずらしてマークしたのに、それが逆に全部正解で受かったじゃない。バドミントンでもライバルがお腹壊して優勝したし、就職も最終面接に遅刻したけど、道中で助けたおばあさんが会長の奥さんで採用されたじゃない。」

「まあ、確かに……運だけでここまできたようなところあるね、私の人生……。」

「一億当てた男だからね、お父さんは。あんたはその強運の恩恵を受けてきたんだよ。」

背後から階段をのぼる音がして、もふもふの塊が部屋に駆け込んできた。

「ほら、こうしてココも元気だしね。」

頭を撫でてやると、ココは嬉しそうに尻尾を振り回した。一度は危篤状態となったココだが、その後、奇跡的に回復。獣医も驚いていた。歳はとったが今もこのように元気である。これもあの日、父が生垣を刈ったおかげなのだろうか。

 

 
 
後編はこちら↓
幸運を呼ぶ儀式 幸せを運んでくれる人
https://www.rentalism.jp/note/881/

 
ヘッジトリマーのレンタルはこちら
https://www.roumu-p.com/2481/

 

執筆者:ナガセローム(長瀬) Twitter note

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